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蚊が運ぶ感染症

ここでは蚊が運ぶ感染症を解説します。

(1) 70年ぶりに国内感染が確認されたデング熱
(2) 昭和に流行した日本脳炎
(3) クレオパトラも平清盛も苦しんだマラリア
(4) 平安時代から流行があったフィラリア
(5) 感染症を媒介する蚊たちの、それぞれの戦略:蚊の栄枯盛衰

デング熱ボタン日本脳炎 マラリア フィラリア 蚊の戦略


デング熱ボタン

70年ぶりの国内感染蚊が媒介する感染症いろいろ首都圏でデング熱の流行デング熱流行の3つの要因有効なワクチン今後の懸念と対策


デング熱が70年ぶりに日本国内で確認されました。運んできたのはヒトスジシマカ

デング熱トップ
70年ほど前の1942年~1945年(昭和17年~昭和20年)にかけて、西日本でヒトスジシマカの媒介による流行がありました。東南アジアからの帰還兵、引揚者が感染源となったようです。
そして70年後の2014年に東京の公園で多数の感染者が確認されました。
東京という大都会の公園で想定外のデング熱の流行が起きてしまったのはなぜなのでしょうか?


 

その前に・・・・蚊が媒介する感染症はたくさんあるのです。

蚊の媒介による感染症はデング熱が大きな話題になりましたが、他にもいくつかあります。

蚊が媒介する感染症一覧微生物分野蚊が媒介する感染症には:

微生物学分野のウイルスではフラビウイルス科フラビウイルス属の黄熱、ウェストナイル熱、デング熱、日本脳炎の4種とトガウイルス科アルファウイルス属のチクングニア熱1種の併せて5種のウイルス感染症があります。

70年ぶりに日本国内で確認されたデング熱はヒトスジシマカが媒介します。他にネッタイシマカも媒介しますが、日本には生息していません。

蚊が媒介する感染症一覧寄生虫分野
寄生虫学分野の原生動物では赤血球内に寄生する原虫類・プラスモジウム属のマラリア原虫4種(三日熱、四日熱、熱帯熱、卵型)があり、線形動物ではリンパ管に寄生する線虫類・糸状虫科(フィラリアと呼ばれる)に属するバンクロフト糸状虫、マレー糸状虫の2種の併せて6種の寄生虫感染症があげられます。
本項ではデング熱、日本脳炎、マラリア、フィラリアを取り上げました。


 

首都圏でデング熱の流行

では、2014(平成26)年のデング熱患者の発生状況を見てみましょう。

デング熱国内患者発生数去年70年ぶりに国内感染が確認されたデング熱患者の発生状況を見ますと、 平成26年8月27日に感染者3名が最初に見つかり、その後、9月に100名を超えて、10月31日には160名となり、2か月少々で終息を迎えました。

感染者の多く(87%)は首都圏に居住していましたが、残り21名の居住地は北海道~東北から近畿~中国~四国へと全国に及んでいることがわかりました。


 

デング熱感染場所また、デング熱に最も多く128名が感染した場所と考えられている代々木公園は近くに明治神宮をはじめとする公園が多く(代々木公園と新宿中央公園ではヒトスジシマカからデング熱ウイルスが検出されている)、新宿・原宿・麻布・六本木などの繁華街にも近く、海外からくる外国人の観光スポットになっています。

また、代々木公園周辺では屋外イベントも多く、年間500万人以上が利用し、今回の時期は夏休み中で海外からの旅行客や家族連れなどが多くいました。


 

デング熱流行の3つの要因

流行が起こるには下記三者がそれぞれ十分な密度でそろっていることが必要となります。

デング熱感染の3つの要因員(1)病原体(デング熱ウイルス)の出現
(2)媒介蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)の生息
(3)多くの感染者ヒト


 

(1)病原体(デング熱ウイルス)の出現

デング熱輸入症例「近隣諸国におけるデング熱感染者の発生状況」

海外で感染して、日本に帰ってから発病するデング熱の輸入症例は年々増えて、2013年は249名でした。 しかし、この輸入症例のみが原因となって今回の流行に繋がったとは考えにくいと思います。


 

デング熱国内患者発生数そこで、日本をとりまく東南アジアの近隣諸国でデング熱感染者は実際にどの位発生していたのかを調べてみました。

すると、2013年では、フィリピン16万人以上、ベトナム5万人以上、タイではおよそ2万6000人など合計32万8575名もの多数の感染者が発生していることがわかりました。

日本では70年ぶりの国内感染ですが、近隣諸国では多くの感染がありました。


 

また、すぐ隣の中国広東省では4338名の感染者が8月から11月までの比較的長い間に発生していることも分かりました。

2013年中国広東省のデング熱患者数(8月~11月)
8月: 674名
9月:1269名
10月:1473名
11月: 922名


 

外国人観光客数さらに今度は、 日本で流行の見られた去年の2014年8月に日本を訪れた近隣諸国からの外国人客はどの位なのかを調べますと、 総数89万人以上と、5年前に比べてほぼ2倍に増加していることがわかりました。


 

平成26年6月法務省在留外国人また、日本に一定期間居住している在留外国人の数は、中国が最も多く64万人以上(31.1%)、以下、韓国・朝鮮508561人(24.4%)、フィリピン213923人(10.3%)、ブラジル177953人(8.5%)、ベトナム85499人(4.1%)などの順でした。その他、タイ42270人、台湾、ネパールが各々3万人以上となっています。

(平成26年6月法務省在留外国人統計資料)


 

以上述べてきましたように、デング熱は6月~10月を中心に近隣諸国の中国、フィリピン、タイ、シンガポール、ベトナムなどで30万人以上の感染者がでています。

そしてそれらの国々から8月のみだけでもおよそ90万人が日本を訪れています

なお、ちなみに首都圏周辺公園内のヒトスジシマカ成虫発生の最盛期は7~8月で、高い昼間吸血性を持っています。 さらに、日本に滞在する近隣の在留外国人も多く、これらの人は母国と日本を行ったり来たりします。 このようなわけで流行するに十分な病原体が日本に持ち込まれて、感染が成立したのではないかと考えられます。


 

(2)媒介蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)の生息

東京都施設16か所における蚊の発生状況
次に、デング熱を媒介するネッタイシマカとヒトスジシマカですが、幸いなことにネッタイシマカは日本それも首都圏の東京には生息していません。

ところが、ヒトスジシマカは首都圏の東京、神奈川、千葉などでは圧倒的に多く生息しており、わが世の春を謳歌している蚊です。
公園・神社・墓地を始めとして農村地域まで様々な環境に適応でき、人家周辺でも昼間、真っ先に激しく吸血にくる蚊です。特に、7~8月は成虫発生の最盛期です。

この数年間の東京都における蚊の発生状況をみますと、捕獲された蚊の80%近くをヒトスジシマカが占めていました。 なお、このヒトスジシマカは温暖化の影響で青森にまで生息分布地域を拡げています


 

蚊の一生蚊の生活史。

卵~幼虫(1~4令)~サナギ(ボウフラとよばれています)~成虫


 

蚊の一生ヒトスジシマカの写真


 

デング熱ウイルスを保有するヒトスジシマカさて、1匹のヒトスジシマカが吸血すると、多くて3~4人を吸血・感染させることができると言われていますが、今回、代々木公園では128人が感染していたので、

128 ÷(3~4)= 42~32 

と公園内にはおよそ30~40匹のデング熱ウイルスを保有するヒトスジシマカがいたのではないかと推定することができます。

また、国立感染症研究所の調査によりますと、代々木公園内のヒトスジシマカからのウイルス検出率は1.8%( 5 / 276 )でした。

たとえば、マラリアでは媒介蚊が1%の検出率があれば十分に流行する可能性があるとされています。今回のデング熱の流行は幸い小流行で終わりましたが、この1.8%という数字は決して安心できる数字ではありません。


 

(3)多くの感染者であるヒトとデングウイルスとの関係
(デング熱ウイルスのヒト体内における感染病態とウイルス血症)

ヒトとデングウイルスとの関係1
ヒトスジシマカに吸血されると、蚊の唾液腺で増殖したデング熱ウイルスがヒトの毛細血管内や血管周囲の組織に注入されます。

ヒトとデングウイルスとの関係2
それから皮膚のランゲルハンス細胞にまず感染し、次いで、単球やマクロファージ系細胞の中に侵入して増殖すると共に脾臓や肝臓などの臓器でも増殖し、このウイルスは血管を通して全身に回ることになります。 ヒトの急性期の血中では、日本脳炎ウイルスに比べてデング熱ウイルスの増殖速度が速く、末梢血液中にウイルスが早い時期から多く現れ(この現象をウイルス血症と言います)、デング熱では、蚊に吸血されると感染する割合が高くなるようで流行への大きなリスク要因の一つとして注視しておく必要があります。 また、デング熱ウイルスは脊椎動物の中ではヒトが最も高い感受性を示すと言われています。


 

空飛ぶ注射器感染の拡大という視点からみますと、インフルエンザでは1人から1.5~3.5人に感染が拡大すると言われていますが、ハマダラカという媒介蚊をもつマラリアでは1人からなんと200人に感染が拡大するとされています。 このようなことから、蚊は『空飛ぶ注射器』に例えられます。 ヒトスジシマカを媒介蚊とするデング熱はこのまま放置しておくと、大流行を引き起こす可能性のある感染症の一つであると言えるかもしれません。


 

有効なワクチンについて

有効なワクチンまた、デング熱には4つの血清型(D1型,D2型,D3型,D4型)があり、東南アジアではD1型の割合が半分程度(56%)を占めています。今回の日本での血清型も多くはD1型でした。

ただ、注意しなければならないのは、デング熱が流行する血清型が年によって異なる場合があり、同種の血清型には防御免疫が終生持続しますが、他の血清型に感染した場合には抗体依存性の感染増強現象が原因で、より症状の重いデング出血熱(東南アジアでは子供の死亡率が高くなります)に移行する場合が少なからずあります。

デング熱からデング出血熱に移行するメカニズムについてはまだよくわかっていません。

このようなことから、デング熱に対する有効なワクチンはまだ完成していないのが現状のようで早く開発されることが望まれます。


 

今後の懸念と対策

課題と対策ま今回のようなデング熱感染者の小規模な発生から始まり、ついでデング出血熱患者の出現、さらには東南アジアで見られているデングウイルスの毎年の本格的流行へと移行するといったことが懸念されますので、

(1) ヒトスジシマカの生息分布の正確な把握と公園などにヒトスジシマカの生息しにくい環境整備を含めた防除体制の確立 (写真は雨水マスと木の洞穴。蚊は水のあるところに卵を産みつけます)

(2) 入国する感染者の発見(旅行者のみならず出稼ぎ労働者も)と侵入防止のための監視体制の確立

(3) 入国後の発症者の的確な把握、などの十分な防疫体制を整えておく必要があるのではないでしょうか?


 

まとめ

東京でオリンピック2020年には東京でオリンピックが開催されます。 開催される7~8月はちょうどヒトスジシマカ発生のピークと重なり、同じ時期に東南アジアなど世界中の人々が多く首都東京を訪れることが予想されます。
不測の事態にならないよう今からでもヒトスジシマカに対する防除対策を推進していかなければなりません。

ヒトスジシマカは昼間吸血性です。肌の露出を控え、蚊に刺されないように注意してください。


 

デング熱日本脳炎マラリアフィラリア蚊の栄枯盛衰

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