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ヤマビルの被害は増加する一方です。なぜ増えたのでしょうか

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ヤマビルの被害が全国的に増える

ここ10~15年の間にハイキング、キャンプ、渓流釣りなどに行ったり、あるいは山林作業をする人々の間でヤマビルに吸血される被害が全国的に増えており、最近では里山近くの住宅地周辺にまで吸血被害が及んでいます。平成22年8月16日現在、ヤマビルが生息し、吸血被害がみられた地域は図1に示したように北は秋田、山形から千葉、神奈川、群馬、静岡、滋賀、京都、兵庫など、南は宮崎、鹿児島の33都府県にまで拡大しております(ヤマビル注意報参照)。

ヤマビル生息地図

体が3~4センチと小さく、歩くための足もなく、飛ぶこともできないヤマビルは、体の後端にある後吸盤で体を支えてシャクトリムシのように前に進みますが、歩ける距離はせいぜい数メートルです。 このヤマビルがどうして日本全国に分布を拡大して人々を吸血するようになったのでしょう


人間の営む社会・経済活動の大きな変化が自然生態系にも影響

ヤマビルの生息数、吸血被害の増加は、人間の営む社会、経済活動の変化が自然生態系にも大きな変化をもたらした結果です。林業の衰退、森林の荒廃、地球温暖化などの気候変動による気温の上昇、ニホンジカやイノシシなどの大型ほ乳動物の分布拡大などと深い関係のあることがわかってきました。


1.戦後復興期の木材需要の急増のためスギ、ヒノキなど針葉樹の大規模な人工林の造成

戦後の復興期の昭和20年~30年代(1945~1955年)に木材需要が急増し、大規模な拡大造林政策が行われ、全国的にスギ、ヒノキなどの針葉樹が植えられ、図2にみられるように1950年では306207ヘクタール、1954年には432681ヘクタールとピークを迎え、1990年においてもまだ、66099ヘクタールが植林され、これまでに造成された人工林は1035万ヘクタールに達しています。

造成林の推移

その結果、現在(2007年)日本の森林の面積2510万ヘクタールのうち人工林の面積は41.2パーセントを占めています。


2.林業の衰退と森林の荒廃

一方、1955年(昭和30年)頃から、それまで一般家庭燃料の中心であった木炭や薪などが石油系燃料に急速に置き換わっていき、薪や木炭の生産は減少し、山村社会は経済的な支えを失い、山の手入れもされなくなり、森林が放置されるようになりました。加えて1964年(昭和39年)に木材の輸入が全面的に自由化となり、図3にみられるように1955年(昭和30年)の木材自給率が94.5パーセントであったのが、1965年(昭和45年)には半分近くの45パーセントに大幅に低下し、1990年(平成2年)にはさらに26.4パーセントにまで激減し、今では木材の7割は海外からの輸入に依存し林業は疲弊、衰退の一歩をたどり、日本の森林の荒廃が目立つようになりました。それは森林蓄積の推移をみれば明らかとなります。

造成林の推移

森林蓄積とは森林を構成する木の体積を立方メートルで表したものです。この森林蓄積は年々増加しており、図4で示したように過去40年間で2.3倍に増えており、特にスギ、ヒノキの人工林ではおよそ5倍に増大しています。これらの森林は本来、伐採して将来使われるための木材のはずなのですが、林業の低迷により置き去りにされているのです。

森林蓄積の推移

一見、外からは豊かにみえる森も、一歩なかに入ると、適度に伐採されないことで光が当たらず、下草をはじめ花や実が育たない、真昼でも暗くじめじめとした場所が多くみられます。このせいで大型のほ乳動物であるカモシカ、シカ、サル、イノシシなどのエサがなくなり、彼らはエサを求めて里山や人家周辺に降りてくるようになったのです。

暗い森林


3.大型ほ乳動物の生息数増加と分布の拡大

最近のイノシシとシカの捕獲数をみると(図5)、1980年(昭和55年)からの26年間でイノシシでは2倍以上、シカではほぼ10倍に急増しています。

シカ、イノシシ捕獲数

シカの増加: 温暖化の影響で冬の降雪期間が短くなり、降雪量も減少し、冬期のシカの死亡率が低下したことや、狩猟禁止の保護策が長期間とられたことなどが原因でシカの生息数は急激に増加しており、森林の草や木が食い荒らされる食害が全国に広がっています。読売新聞の調査(2004.9)では全国のシカの頭数は28都道府県でおよそ56万頭に増えているとし、食害による森林被害も23都道府県で600ヘクタールに及ぶとされています。

ニホンジカの密度分布

神奈川県丹沢山地と千葉県房総半島におけるニホンジカの密度分布をみると(図6、図7)、ニホンジカの適正な生息数は普通1平方キロメートルあたり2~3頭ですが、丹沢山地では平均27.0、房総半島では平均10.2と両地域ともに極めて高い密度分布を示し、実際に両地域では人家周辺でもニホンジカはよく見かけることが多くなっています。

房総半島におけるニホンジカの密度分布

イノシシの増加: イノシシの分布は以前は九州、四国、神戸の西日本を中心にみられていますが、最近では神奈川、山梨、千葉などの東日本でも多くみられるようになりました。イノシシは足が短いため深い雪が苦手なのですが、最近の降雪量の減少により、富山、新潟などの日本海側の地域にも進出し、長野、群馬でも多くみられるようになってきました。


4.ヤマビルはどんな動物を吸血して増えてきたのか

1970年代後半以降、秋田県下の上小阿仁村、井川町、五城目町、秋田市にかけての秋田営林局管内の国有林を中心にヤマビルが大量発生し、山林作業者の間でヤマビルによる吸血被害が多くなりましたが、この頃はヒトの血を吸ってヤマビルが増えたのではないかと考えられていました。

しかし、これらの地域で捕獲されたヤマビルがどんな動物を吸血しているかをPCR-SSCP法によるDNA解析によって調べてみると、実際にヒトの血液を吸血していたヤマビルは全体の3%と少なく、カモシカが主たる吸血源(59%)であることが明らかになりました。その後、兵庫県や神奈川県においても同様の方法で調べられ、両地域ともにニホンジカやイノシシが主たる吸血源であるとともに、ヤマビルの運搬役にもなっていることがわかってきました(図8)。

DNAによる動物種

以上に述べてきたように、ヤマビルの生息域の拡大と、吸血被害の増加には、林業の衰退、森林の荒廃、温暖化、野生動物の増加、ヤマビルの吸血動物(シカ、イノシシ)の増加などの要因が相互に深くかかわっていることが明らかとなってきました。

なぜ増えたまとめ


ヤマビルとシカ、ヤマビルとイノシシ

ヤマビルの吸血被害が増えた地域では、シカやイノシシなどの野生動物も増えています。
ヤマビルとシカ、イノシシ

 

一般財団法人 環境文化創造研究所内 ヤマビル研究会 (代表:谷 重和)
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